「ひかるくんちょっと聞いてくれますか」



部室に一人残っていた財前光に意味深気に声をかける。数秒間待ったが返事をしない当人に目を向ければ、心底迷惑そうな顔をして私を見ていた。(なっまいき!)(かわいいから許す!)



「ほな、俺はこれで」
「ええなんで!空気読んでよ!」
「部長に直接言うてくださいよ」



部長、と蔵を指す言葉が出た瞬間、もごもごと口ごもる私。なんで、というほどの事はない。今日4月14日は、私の愛する白石蔵ノ介の誕生日である。(うわあ!うわあ!)



「一応、昨日は12時まで起きててさ、メールしたんだよおめでとうって」
「はあ」
「絶対プレゼント用意してるって思われてる」
「え、もしかして用意してないんすか」
「・・・・・・」
「先輩、アホちゃいます」
「悪かったなあ!ああもおお…私ほんとアホ・・・」
「先輩のことやから一ヵ月前には用意しとるもんかと」
「一ヵ月前からずっと考えてたんだけどさ!」



バレンタインデーにホワイトデーというベタながらにして大事な大事な恋人行事は円満に終えたものの、誕生日となるとまた話は別。友達の誕生日でもプレゼントには悩まされるというのに、その相手が蔵ともなると悩みに悩んで私は頭を痛めていた。蔵の好きなものを考えれば既に持っていそうな気がするし、私の好みで選んでしまうのも何だか自信がない。と、一人もやもやと考えているうちに当日、である。どうしても1番にお祝いがしたくてメールを送ったが、今の今まで蔵とは全く口を聞いていない。(なんだか自分で墓穴を掘ってしまったような気がする・・・)



「と、そういうことでね、私べつに冷たい彼女とかじゃないんだよ」
「・・・」
「むしろ悩みに悩みすぎた結果なんだけど!でも私ほんとアホすぎて!」
「・・・・・・」
「・・・ね、沈黙は肯定になっちゃうんで・・・返事くらいしてよひか・・・」
「おん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
、」
「あああああ!!?」



な、な、な。なんということ!だ!
迷惑がりながらもしっかり話を聞いてくれていた何だかんだ優しい後輩は一体どこへやら。気が付けば短髪黒髪はミルクティー色の外はねに変わり、はにかんだような笑顔で私を見つめているではないか。これほど時間を戻して欲しいと思ったことはない。微妙な沈黙の中、私は恐る恐る口を開いた。



「・・・・・・い、いつから」
「・・・まさか、一ヵ月も前から考えてくれとると、思わんか、った・・・」
「(うわ、うわあ!)」



蔵は左手で口元を隠し、左下右下と目線を泳がす。という様子も、私がちらちらと目を向けたときに見えたもので、その表情も心情も読み取れない。
というか、私が気にすべきはそこじゃない、そこじゃないです私。



「あの、さあ!くら、」
、俺な」
「え、うん」
「別に、なんもいらへんよ」



手は口元から離れ、ふわ、と柔らかい笑みを浮かべる。
なにもいらない、だなんて、この状況ならそれはそう言うだろう。あるいは、それが本心であったとしても(蔵なら十分考えられる)それでは私の気が収まらないというもの、だ。
複雑な顔をして黙ったままでいると、それを察してなだめるように私の髪を撫でる蔵。(ああまた)気を遣わせてしまっているような気がしてならない。情けない気持ちを抑えようと、きゅっと目を閉じた。



「・・・・・・」



蔵の手が止まり数秒後、私の鼻先を私のものではない髪が掠めた。弾みで目を開けると、目の前至近距離で閉じかかっていた蔵の目もまた、ぱっと開いて、「・・・あっ」という小さな声と同時に見る見るうちに赤面していった。(は?え?まさか)(うわ、私やっちゃったよ)なにか、なにか喋らないかと待っていると、小さな声で「・・・プレゼント貰おかな、って思うて・・・」なんていう言葉が聞こえた。照れながらも冗談まじりに言う蔵がなんだか可愛くって、思わず、にへ、とにやけてしまった。



「それはまた・・・ベタだねえ」
「ベタは全ての根源やで」
「ふふ」
「・・・あかん?」
「いーえ!」
「ほな、・・・いただきます」
「あ、ちょっと待って」



きょとんとする蔵の顔を見つめ(いざ面と向かって言うのも何だか照れてしまうなあ)一呼吸おいて一言。



「生まれてきてくれてありがとう、今日からもずっと大好きだよ!」




Happy Birth Day Kuranosuke Shiraishi!All my love for you!


(えっ蔵なんか涙目?)
(あかん・・・じわっときた)