びゅうう。もう3月も中旬だというのに吹きつける風の冷たいことったら。もふ、っと鼻の辺りまでマフラーに顔を埋め、真っ赤になった手はそのままに、今日も寒いなあ、なんて話題をふってくれる蔵と並んで校門を出た。


「わああ、前髪あがる」
「ほんまやなあ、おでこ全開」
「ああもう、帽子買おうかなあ」
「ポンパドールにしてもかわええんちゃう?」
「・・・えー」
「かわええよ」


新しく髪型を提案する彼の顔は、なぜだか自信に満ちていて、可愛いと断言されると逆にこちらの方が恥ずかしくなってしまう。真っ赤な指先で前髪を弄ろうとしたが、まだ、早い。(蔵の手はまだ、学ランのポケットの、なか。)


「?、どないしたん」
「ううん、蔵ってさあ、プロデュース好きでしょ」
「そんなことあらへんよ、・・・あれ、嫌やった?」
「んー、蔵センス良いから、文句つけらんない」
「そら良かったわ、・・・わ!」
「ぷわ!」


なんの前置きもなく容赦なく吹きつける風は、見事に私達の会話を遮った。ついでに、私達の髪の毛を乱し、蔵の手をポケットから出させたのだった。(よし、いま、だ!)私は私の真っ赤な指で自分の髪を直し、彼の手を見やる。


「いきなりやったなあ、大丈夫か?」
「髪ぐっちゃぐちゃ」
「!」
「蔵、」


彼の目線が私の髪から指へとうつったのを確認し、彼の名前を呼んだ。(さあ、こい!)


「手ぇ真っ赤やんか」
「めっちゃ冷たいもん」
「・・・」
「・・・・・・蔵?」
「・・・せやから手袋せなあかんって言うたやんか!」
「(えー)」
「ああもう!霜焼けんなったらどないしよ!行くで!」
「(えええー)」


と、これが彼の本能なのだろうか、その行動は私の期待の斜め上を行った。浪速のオカンこと白石蔵ノ介は、私を可愛らしい雑貨屋さんへ連行し、一通り手袋を吟味、そしてあっという間に私好みのおしゃれな手袋をお買い上げなさったのだった。「ほい、手ぇ出し」と、テープとタグを丁寧に外しながら促す蔵に、「ん、」と手の平の上にし受け取る姿勢をとると、そのまま手袋をつけてくれた。そのときの蔵の満足そうな顔ったら。


「んん!似合うとる、かわええで」
「んー」
「・・・??」
「・・・」
「・・・もしかして、気に入らんかった?」
「ううん、さすが蔵、私これ好き」
「そか?そら、良かっ、」
「蔵ってさあ」
「おん?」
「分かってないよねえ」
「、え・・・」


一瞬にして何とも言えない戸惑いの表情を見せた蔵の手を見て目配せ。どうにもこういうことには鈍いらしい。


「!あ・・・・・・」


ようやく気が付いた蔵は顔を赤くして、あ、だの、う、だの言って余裕をなくしていた。(うわ、珍し)


、手袋はずしてんか」
「いやですう」
「んん、ほんまスマンって、ー・・・」


申し訳なさそうな顔をして私の半歩後ろを歩く蔵。(世話焼きも良いけどちょっと反省してもらいましょう)

そんなわけで次の日、朝はしっかり装着してきた手袋を帰りにポケットにしまったのを見た蔵が、嬉しそうに頬を緩ませて私の手をとったのは大きな進歩だと思う。まあ、とりあえずは。




プラトニックに始めましょう


(それにしても雑貨屋さんまでの道を、私の手をひいて行ったことは記憶にないんだろうか)