「シュッ、シュッ」



テレビを見ていてあのCMが流れれば、なんとなくクセになってしまうのも分かる、分かるが。



「シュッシュ言ったってイケメンになるわけじゃないよ?」
「……」


私の隣で口を尖らせ妙な擬音を発している謙也にひとこと忠告。不満そうな顔を見せたが擬音は止まなかった。(機嫌わるくなったな)(分かりやす)
なんでこう、この子はテレビの影響を受けやすいのか。しかも妙なCMばかり。隣で聴いていればいい加減イライラしてくるというものだ。(「ホットッペッパピップペッパッピ♪」と永遠に繰り返していた謙也にイライラして辞書で頭を叩いたのは記憶に新しい)



「…辞書どこしまったの」
「な!」
「(あ、やっと喋った)」
「ま、また叩く気なんかい…!」



わざとらしく身構えられるが笑って流す。(これってわたしの愛なのよ、謙也くん)
しかしそのせいか否か、シュッシュッと私をイライラさせる擬音は再発したのだった。ああもう!この二人しかいない部屋の中でシュッシュ!しか言葉がないなんていう異空間。私に一体どうしろというのだろう。じっと謙也を見つめても声は止まずなんの反応もない。突き出た唇に一発キスでもかましてやろうかとも思ったがまあ冷静に考えて、やめておいた。

退屈になった私は、そういえば最近あの整髪剤のCMに女の子も出てきたのだ、なんて思い出していた。…さっきの私の言葉を引用すれば、シュッシュ言ったって可愛くなれるわけじゃないけど。(清純派なあの女優さんが謙也の好みっぽいなあとか思わないわけじゃないけど)



「…シュ」
「シュッ?」
「(…うつった)」



さっきまで不機嫌そうだった謙也、私もノッてきたことが嬉しいのか、(…嬉しいんだろうなこれは)パッと目をキラキラさせてにこっと笑う。



「シューッシューッ」
「(…已む無し)シュ」
「シュッ!」
「シュ、…」
「シュッシュッ」
「…ちゅ」
「ちゅ?」
「ちゅう」
「……」
「ん」



謙也の体に体を寄せ、目を瞑って待つと、謙也の声は止んだ。
その状態で1、2分。その後、私の腕をぐっと掴み、また1、2分。謙也の手は小刻みに振るえていて、くっついていないのにバックンバックンと謙也の心臓の音が、目を瞑っているのに、耳まで真っ赤にして汗ばんだ顔が見えるようだった。
謙也の前髪が私のおでこに触れ、いよいよ、という瞬間、私はパッチリと目を開けた。(だってもう、おかしくって!)



「ッ!!?」
「ふふっ、謙也、!本気にしてやんの」
「な、な、なに笑ろて…!」
「謙也、顔まっか!ふふ!」
「お、おま、!」



案の定想像通りの顔をしていて、さらにおかしくなってしまって笑う。全国のヘタレ代表みたいな顔をして迫力のない声で私を怒鳴る謙也、うん、これが謙也。両手で顔を覆って恥ずかしそうにする姿は、おかしくって(可愛くって)だれにも見せられないな、と思った。



「けーんやくん、もうシューッしないの?」
「す、するわけないやろドアホ!」
「じゃあ」


いーのいーの


(ちゅう、する?)
(す、…する)