「お腹すいたあ」


昼休み、周りが昼食の準備をしている中、が俺の机の横に来ていう。(これは・・・)俺はなにか本能的にいやーな予感を察知して、机に視線を戻しペン回しなんかを続けてみたりする。「謙也ー」切なそーな表情を浮かべて俺の服の袖をひっぱる、その手。その手は(あかんやろ・・・!)、可愛いだなんて思ったのも束の間、その手にはどんどん力が加わり終いには腕の肉ごとつままれる。



「けーんーやあああ」
「痛いわ!!なんやねん何も出ぇへんで!」



開放された腕をさすりながら言い放つと、彼女はあからさまにしょぼくれた顔をした(なんやこの罪悪感は・・・!)。
俺の机に手をかけたまましゃがみこみ、睨んでいるのか否か、上目で俺を見る。ああもう無意識か作戦か知らんけど、絶対のらへんで・・・!一人葛藤しているとはちいさな声で呟いた。



「ご飯ないもん」



「は?」
「ご飯もおやつもない!しにそう!」



ひもじいよー。と机に額をくっつけて唸り始めた。かと思うと、顔をあげて



「一緒に購買いこ!」



これだ。穏やかな微笑みを浮かべて、なんちゅうこと言い出すんや!
というのも、これはつまり、俺に奢れということである。



「なんでやねん!俺、今月金欠やねんぞ・・・!」
「でもほら私の方が金欠じゃん」
「いやお前お袋さんに飯代もろてるやん!」



すると両手を叩いて今思い出したかのように「あ、ほんとだ」。がさがさとポケットやら鞄やらをあさり出すを横目に、俺は溜息をついた。・・・はアホなんか賢いんか分からんとこあるからなあ。「あったー」しょぼくれていた顔がにこーっと笑顔に変わったのを見て、思わず俺も頬が緩ん、だ・・・



「・・・って、それ俺の財布やんかああ!!」
「そう!謙也の!!」
「そう!やないわドアホ!返しぃや!」
「あん、私のお昼・・・」
「自分いまの話の流れ聞いとった!?」
「謙也のお母さんいつも謙也にご飯代ありがとうございます有り難く頂戴します」
「いやの話や!!」



油断も隙もあったもんやないわホンマ・・・!財布をとりあげると眉を寄せて俺を見た。(いやこれ俺悪くないよなあ!)
ぐう。の腹が鳴った。慌てて腹を押さえて恥ずかしそうにしている、ちょっと涙目。



「けんや・・・」
「・・・飯代どないしたんや」
「使った」
「はあ!?」
「マスカラなくなった・・・」
「このドアホ!」



化粧品かいな!呆れて物も言えん・・・!
というのがに伝わったのか、は申し訳なさそうな顔でこちらの様子を覗っている。そんでまた、俺の袖をつかんで言った。



「今週謙也とデートしようと思って、ちゃんと可愛くしないといけないでしょ?」



そんなこと言われた瞬間にもう、少女漫画の効果音みたいな音が俺の中で響き渡って、そんなんせんくっても十分カワエエっちゅー話や!とかなんとか思ったけど上手く呂律が回らなくて、とりあえず俺の財布持って二人で購買に向かったっちゅー話や。



わがままアンジェリケ



(ああ俺の頭ん中もう、こいつ中心やなあ!)