「あ、っあ、わかし、くん、」



熱い。あついあついあつい、若くんがこんなに近くにいるというのに、私は今までに感じたことのないくらいの、圧迫感のようなものに頭を溶かされておかしくなりそうだ。困ってしまう、一体私はどういう状況にあるのか、一体彼となにをしているのか、自分でもちゃんと理解できていないのだから。(事が始まる前は分かっていたのかもしれない、だとすると、やっぱり私の頭は溶かされかかっているのだろう)なぜ、なぜ。きっと彼が、いつもは言ってほしくてもなかなか言ってくれないくせに、今はすなおに「好きだ」なんて言うからだ。その言葉が、どうにも私をおかしくさせるらしい、憎らしい、若くんのことば。けれど彼は冗談でこんなことを言う人ではないことはよく知っている(もちろん、冗談でこんなこと、絶対にしない)から、憎らしさは考えたほんの数秒で消えてなくなってしまった。、」私の名前を呼ぶ声も「…っ、あ」なんていう、ひらがな一文字分のちいさなちいさな声さえも彼の言葉が愛しくて愛しくてたまらない、のだ。


(・・・あ)

(ああ)


どうしよう、もう、こうなれば余裕なんてないはず(なのに、頭は一気にいろんなことを考えることができる)。私の首あたりに触れている指の、若くんの綺麗な指の、その感触が何かをリアルに訴えているようで、なんだかいやらしい。なんていう風に感じてしまう私は さいてい だ、と思った。けれど、指だけじゃ、ないのだ。知的で聡明で、いつもいつも綺麗だ、と思わせる彼のすべてが。なんだか違う人のようだ。(こわい、だなんて、そんなばかな)
そして私には、綺麗な若くんを変えてしまっているのは私なのではないだろうか、という考えが浮上してしまう。いつもの彼を、私のからだが違う人に変えさせてしまっているようで。ああ、なんということをしてしまったのだろう申し訳なさでいっぱいだ。(それなのに私の腕は彼の首に回ったまま離れようとしないなんて、なんて身勝手なのだろう)なにがなんだか分からない頭で考えすぎた、急に切なさがこみ上げてきて、私は目に溜まっていた涙を次々と落としてしまった。



「ごめ、ん。痛い か?」



お互いの息を感じることができるくらい近い距離、少々虚ろな目をしたまま心配してくれる彼。何度も何度も、いつもの優しい手で髪を撫でられた。(よゆうなんて、ないくせに)(ああ、どうしてこのひとは、こんなにもやさしいのだろう)ちがう、ちがうよ。そう言いたい口はうまく回らず、私は小さく首を横に振った。ただ無意識に口から漏れるのは「若くん、若くん、」なんていう、彼の名前を呼ぶ声だけ。
目の前の若くんを見ながらもう一度考えてみれば結局(やはり少し、いや、かなり、いやらしく見えることには変わりないのだけれど)、綺麗な若くんが変わるなんてことはないのだった。なにがあったとしても 彼が美しい という事実は絶対に揺らぐことなどないのだから。



(あ、あ、)



若くんが少し苦しそうに私の名前を呼んだのと、私を痛いくらいに ぎゅうう、 と、それはそれは強い力で抱きしめたのは同時だった。そしてまた言うのだ、「好きだ」なんて。(その瞬間、私はきっと完全に、溶かされた。)





マキアート
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